高周波回路、特にRF回路においては、配線レイアウトやGND(グラウンド)の取り方が回路性能を大きく左右します。
- GNDプレーンの設計が不十分だと、ノイズが増大して通信品質に悪影響を及ぼす。
- インピーダンス制御が適切でないと、信号が大きく反射し、損失が増えたり不要放射(ノイズ)が出たりする。
本記事では、これらの問題を回避するために押さえておくべきGND処理とインピーダンス制御の基礎を整理します。私自身がEMC測定ラボと連携して得た実測データをもとに、実践的なノウハウをお伝えします。ぜひ最後までお読みいただき、設計にお役立てください。
RFラインとは?
このセクションでは、RFライン(高周波回路における信号伝送路)の役割と、代表的な種類であるマイクロストリップラインやストリップラインの特徴について解説します。RFラインの構造を理解することは、後述するGND処理やインピーダンス制御を正しく行ううえで欠かせません。
高周波回路におけるRFラインの役割
「RFライン」とは、数MHz〜数GHz以上の高周波信号を伝送するための伝送線路です。スマートフォンや無線通信モジュールなどでは、この高周波信号の品質が通信性能を左右します。RFラインが適切に設計されていないと、
- 反射による信号劣化
- 不要放射によるEMI(電磁的干渉)問題
- 挿入損失の増大
が起こりやすくなります。高周波回路では、電気信号が波として振る舞うことを意識し、物理的な配線寸法やレイアウトのわずかな違いが大きな影響を及ぼす点を念頭に置いて設計を進めましょう。
RFラインの種類と特徴
代表的なRFラインとして、下記の2種類が挙げられます。
- マイクロストリップライン
- PCB表面層に導体パターン、その下層にGNDプレーンを配置する構造
- 設計が比較的容易で実装コストを抑えられる
- 大気との境界面に露出しているため、周囲環境の影響を受けやすい
- ストリップライン
- 基板内部層の導体パターンを挟む形で上下にGND層を配置する構造
- 電磁界が基板内部に閉じ込められるため、外部ノイズの影響を受けにくく安定性が高い
- 内層を使用するため、コストと実装難易度が上がりやすい
いずれの構造でも、導体幅や基板厚み、誘電率などの要素が特性インピーダンスを決定します。これらはインピーダンス制御の要となるので、しっかり把握しておきましょう。
GND処理の基本
このセクションでは、GNDプレーンの重要性と、誤ったGND処理による悪影響について解説します。高周波回路においては、GND=基準点という単純な理解では不十分です。適切にGND面を設計しないと、ノイズレベルが上がり、性能の低下や誤動作につながります。
GNDプレーンの重要性
高周波回路では、GNDもひとつの配線として扱う必要があります。大きく連続したGND面を確保することで、以下のメリットが得られます。
- ノイズ抑制:不要な電流経路の発生を抑えられる
- 信号の安定化:基準電位が揺らぎにくくなり、各種信号の品質が向上
- 放熱:広いGND面は熱の拡散にも寄与
デジタルGNDとアナログGNDを分割すべきかどうかはしばしば議論となりますが、高周波では最終的にひとつのGNDプレーンとしてまとめる設計が多くの場合で推奨されます。分割すると、分割面のスリットや細いパターンが高周波インダクタンスを生み、結果的にノイズを誘発することが少なくありません。
間違ったGND処理が引き起こす問題
私がコンサルティングで経験した実例でも、基板途中の狭い配線でGNDプレーンが途切れており、局所的に大きな電位差が生じていました。その結果、
- ノイズが増大し、回路動作が不安定になる
- 高周波電流が意図しない経路を流れて、放射ノイズが増加する
といったトラブルが続出。GND面を連続化し、複数のビアを用いて裏面のGND層とも多点接続したところ、ノイズレベルが大幅に低減し、通信モジュールの誤動作も解消しました。こうした事例からも、GND処理の基本がいかに重要かを再認識していただければと思います。
インピーダンス制御の基礎
このセクションでは、インピーダンス制御の重要性と、設計時に押さえておくべきパラメータについて説明します。特に高周波信号では、正しいインピーダンスマッチングが行われていないと、反射や損失が目に見えて大きくなり、回路性能を損ないます。
インピーダンスマッチングとは?
一般に高周波回路で用いられる伝送線路(RFライン)は、特性インピーダンスを決められた値(50Ωなど)に合わせる必要があります。送信側(ソース)と受信側(ロード)も同じインピーダンスに合わせることで、
- 反射の低減
- 損失の低減
- 不要放射の抑制
といった効果が得られます。インピーダンスが不整合だと、信号の一部が戻ってしまい(リフレクション)、結果的に回路の効率や安定性が大幅に低下します。
設計時に考慮すべきポイント
PCB上でインピーダンス制御を行う際は、以下のパラメータに注目してください。
- 導体幅
- 幅が広がるとインピーダンスは下がり、狭くなると上がる
- 導体とGNDプレーンの距離(基板厚み)
- 距離が近いほどインピーダンスは下がる
- 基板材料の誘電率
- 誘電率が高いほど信号の伝搬速度が遅くなり、インピーダンスが下がる
- 導体パターンの形状(マイクロストリップ/ストリップライン)
- 外部環境や内部構造の影響を受けやすいかどうかによりインピーダンスが変わる
実際にはANSYS HFSSやCST Studio Suiteなどの電磁界シミュレーションソフトを活用し、ライン幅や層構造をパラメトリックに最適化していくのが一般的です。
FAQ
ここでは、実際の設計現場やコンサルの現場でよく寄せられる質問にお答えします。些細な疑問でも、しっかり理解しておくことで設計のミスを減らし、スムーズな開発が可能になります。
- Q1: RFラインの最適な幅は?
A1: 基板材質の誘電率や層間厚みに依存し、一概には言えません。FR-4(誘電率約4.4)の1.6mm厚基板にマイクロストリップラインで50Ωを合わせようとすると、導体幅はおおむね2〜3mm前後になることが多いです。最終的にはシミュレーションや試作基板の実測で検証してください。 - Q2: GNDプレーンの形状はどのように設計すべき?
A2: 可能な限り大きく、かつ分断しないのが鉄則です。高周波では細い部分がインダクタンスを生み、ノイズ源になることが多々あります。複数のビアで裏面GNDと連結すると、さらなるノイズ低減が期待できます。 - Q3: インピーダンス制御のためのシミュレーションツールは?
A3: ANSYS HFSSやCST Studio Suiteが代表的ですが、近年は低価格帯や無料ツールも増えています。最終的には試作基板の実測と照合して最適化するのが望ましいです。
まとめ
最後に、本記事で紹介した内容を振り返って、RFライン設計における重要ポイントを整理します。GND処理やインピーダンス制御は、高周波回路の設計効率や製品の信頼性に直結する要素です。ぜひ基本を押さえて、より良い設計に活かしてください。
- RFライン
- マイクロストリップラインとストリップラインで構造が異なる
- 導体幅や基板厚みにより特性インピーダンスが決まる
- GND処理
- GNDは大きく連続的に設計し、細い配線やスリットを避ける
- デジタルGNDとアナログGNDも、高周波領域では最終的に1つにまとめることが多い
- インピーダンス制御
- 送受信側と伝送線路のインピーダンスを合わせ、反射を抑える
- シミュレーションソフトと実測を組み合わせて最適化する