EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)放射ノイズは、電子機器の誤動作や誤検知の原因となりうるため、確実に抑制しなければならない重要課題です。特に、高速デジタル回路や高周波回路を扱うシステムでは、基板上の配線やプレーンを介して想定以上のノイズが放射されることが少なくありません。
その背景には、大きな電流ループや、グラウンドプレーンの特定周波数での振る舞い(プレーン共振)が大きく関わっています。本記事では、そのメカニズムと具体的な対策手法を詳しく見ていきましょう。
EMI放射ノイズとは?
ここでは、EMI放射ノイズの定義や発生原理、そしてどのような原因で増幅されるかを解説します。
EMI放射ノイズの基本
EMI放射ノイズとは、電子回路から不要に放射される電磁波を指します。多くの場合、高速デジタル信号の立ち上がり・立ち下がりや、高周波回路での電磁界の取り扱いが不十分なときに発生します。
空間を伝搬する「放射ノイズ」と、ケーブルを通じて伝わる「伝導ノイズ」の2つに大別できますが、本記事では放射ノイズを中心に取り扱います。
EMI放射ノイズの主な原因
EMI放射ノイズが増幅される背景には、さまざまな要因が絡んでいます。以下に主な原因を挙げてみましょう。
- 信号ループの大きさ
高速スイッチング回路やクロック線が大きなループ面積を持つ場合、強い電磁界を放射しやすくなります。 - グラウンド設計ミス
グラウンドが意図せず分割されていたり、不適切な箇所で複数のグラウンドが混在したりすると、不要な放射が増大する原因となります。 - インピーダンス不整合
特に高周波領域で、配線のインピーダンスが信号ラインと合っていない場合、反射波が増加しノイズ成分が大きくなります。
プレーン共振とは?
次に、グラウンドプレーンや電源プレーンが特定の周波数で「アンテナのように」共振してしまう現象について解説します。プレーン共振は、想定外のノイズ増幅・放射の原因となり、EMIトラブルを大きくする要因の一つです。
プレーン共振のメカニズム
プレーン共振とは、基板上のグラウンドプレーンや電源プレーンが特定周波数で電磁波を溜め込む「共振器」のように振る舞う現象です。薄い銅箔であっても、板状の導体は特定周波数域でエネルギーを蓄えやすく、実質的に放射効率を高めてしまいます。
プレーンの物理的サイズや形状、端子やスロットなどの有無によって、共振周波数は変化します。
プレーン共振がEMIに与える影響
プレーン共振が起こると、特定周波数でグラウンドプレーンや電源プレーンが強く振動し、ノイズを増幅・放射するアンテナとして機能します。たとえば、高速デジタル回路のクロック成分とプレーンの共振周波数が重なると、測定値で大きなピークが現れることが多々あります。
近年の高速伝送規格(PCIe、USB 3.xなど)を扱う回路設計では、プレーン共振が原因でEMI試験に不合格となるケースも珍しくありません。
EMI放射ノイズを抑える設計対策
EMI放射ノイズを抑えるには、単純に部品を追加するだけではなく、基板全体のレイアウトやグラウンド設計を考慮した統合的なアプローチが必要です。ここでは、プレーン共振の制御方法や実践的なノイズ低減手法を紹介します。
プレーン共振の制御方法
以下に、プレーン共振を制御するための代表的な手法を示します。
- プレーンのレイアウト変更
プレーンを必要以上に大きくしない、スロットを適切に設けるなどして共振モードをずらすことが効果的です。 - スロットやビアの活用
共振を分散させるためにスロット(切れ目)を入れたり、ビアを追加して電流のリターンパスを調整する手法があります。 - 多層基板化と層構成の最適化
単・二層基板では共振が発生しやすいため、グラウンド層・電源層を近接配置できる多層基板化が有効です。
EMI低減のための実践的アプローチ
ここでは、EMIを低減するための具体的なアプローチをいくつか挙げます。
- デカップリングコンデンサの最適配置
IC近傍に複数の容量値を持つコンデンサを配置し、高周波ノイズを効率よくバイパスします。 - フィルタリング技術(コモンモードチョークなど)の活用
外部インターフェースや電源ラインにコモンモードチョークコイルなどを挿入してノイズを抑制します。 - 接地の最適化
アナログ系とデジタル系のグラウンド分割の可否を慎重に検討し、不要な電流ループを発生させないようにします。 - ノイズ抑制部品の選定
フェライトビーズやEMI吸収シートなど、ターゲット周波数帯に合った部品を採用することで、より効果的な対策が可能です。
FAQ
EMI対策に関して多くの方が疑問を持つ点を、Q&A形式でまとめました。具体的なトラブルシューティングの参考にしてみてください。
- Q1. EMI試験で不合格になった場合、最初に見直すべきポイントは?
A1.
まずは放射ノイズのピーク周波数と、その周波数帯で動作している回路要素(クロック、レギュレータ、通信インターフェースなど)を洗い出します。次に、関連する配線やグラウンドプレーンのレイアウトを再確認し、大きなループ面積や不適切なビア配置がないかをチェックしましょう。 - Q2. プレーン共振を抑える最適な方法は?
A2.
多層基板化によるグラウンド・電源の近接配置、ビアやスロットの最適な配分など、設計段階での対策が非常に効果的です。シミュレーションと実測を組み合わせて、どのように共振周波数が変化するかを追うことがポイントになります。 - Q3. ノイズ対策に効果的な部品は?
A3.
一般的には、デカップリングコンデンサ、フェライトビーズ、コモンモードチョークコイル、EMI吸収シートなどが挙げられます。必要とする周波数帯を明確にしたうえで最適な部品を選定することが重要です。
まとめ
EMI放射ノイズは、信号ループの大きさやインピーダンス不整合などが原因となりますが、基板上のグラウンドプレーンが起こすプレーン共振によって大きく増幅されることがあります。設計段階からプレーン共振を意識し、シミュレーションや実測評価を重ねながら最適化を図ることで、試作後の手戻りや追加コストを最小限に抑えられます。
ノイズ対策に「これだけやれば万全」という単独の解決策はありませんが、基板構造の最適化、ノイズ抑制部品の選択、ループ面積の縮小など複数の方法を組み合わせることで高い効果が得られます。高速・高周波の領域では些細な設計ミスが大きなノイズ源となるため、早期の検討と評価が鍵となります。